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日本医師国家試験117E22

心尖部に以下の模式図に示すパターンで心雑音が聴取される疾患はどれか。

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正解:b

AI解説

心尖部に聴取される全収縮期雑音(汎収縮期雑音)を解釈するためには、心臓弁膜症の血流力学と聴診所見の関係を理解する必要があります。全収縮期雑音は収縮期全体にわたって持続する雑音で、主に房室弁(僧帽弁・三尖弁)の閉鎖不全や心室中隔欠損で生じます。

本症例では雑音の最強点が心尖部にあることから、僧帽弁関連の病変が疑われます。僧帽弁閉鎖不全症(MR)では、収縮期に左心室から左心房へ血液が逆流するため、I音直後から始まりII音まで続く高調性の雑音が特徴です。この雑音パターンは「パンストーリック・マーモア」と呼ばれ、逆流が収縮期全体にわたることを反映しています。

重要な鑑別点は雑音の形状で、大動脈弁狭窄症の菱型雑音(クレッシェンド・デクレッシェンド)と異なり、MRでは逆流圧較差が収縮期を通してほぼ一定であるため、雑音強度が持続する平たい波形を示します。さらに、MRでは左腋下方向への放散や、重症例ではIII音の聴取といった追加所見が診断の手がかりになります。

a

僧帽弁狭窄症(MS)は拡張期雑音を特徴とします。典型的にはI音の亢進と開弁音(opening snap)に続く低調な拡張中期ランブルが聴取され、聴診部位は心尖部に限局します。収縮期雑音が主所見となる病態ではないため、本症例とは矛盾します。ただしMSにMRを合併した場合、収縮期雑音が出現することがある点に注意が必要です。

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僧帽弁閉鎖不全症(MR)の典型的な聴診所見です。高調性の全収縮期雑音が心尖部で最強となり、左腋下方向へ放散する特徴があります。雑音の強度はLevine分類で3/6度以上の場合に臨床的意義が高く、慢性MRではIII音の聴取や心尖拍動の偏位を伴うことがあります。超音波心エコーでは左房拡大と収縮期の逆流ジェットが確認できます。

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大動脈弁狭窄症(AS)では右第2肋間(大動脈弁領域)を最強点とする粗い菱型雑音が特徴です。雑音は収縮中期にピークを持ち、頸動脈へ放散します。重症度が進行すると脈圧の狭小化や頚動脈拍動の遅延(pulsus parvus et tardus)が認められます。心尖部で聴取される場合でも、雑音の形状と最強点が異なる点で鑑別可能です。

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大動脈弁閉鎖不全症(AR)は拡張期雑音を主徴とします。高調な減衰性雑音が左第3-4肋間(Erb領域)で聴取され、重症例では末梢血管徴候(de Musset徴候、水衝脈など)を伴います。Austin Flint雑音(心尖部の拡張中期ランブル)が生じる場合がありますが、収縮期雑音は主要所見ではありません。

e

動脈管開存症(PDA)は連続性雑音(機械様雑音)が特徴で、収縮期に増強し拡張期に減弱します。最強聴取部位は左第2肋間で、肺動脈弁領域に放散します。重症例では連続性雑音が「機械の騒音」と表現され、心尖部を主座とする本症例の所見とは明らかに異なります。