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日本医師国家試験117D62

52 歳の男性。右片麻痺を主訴に来院した。1 か月前から早朝に激しい頭痛を自覚していたが、市販の鎮痛薬を内服して様子をみていた。10 日前から右上下肢の脱力が出現し、次第に増悪したため受診した。既往歴に特記すべきことはない。 身長 172 cm、体重 68 kg。体温 36.2 ℃。脈拍 72/分、整。血圧 134/82 mmHg。呼吸数 16/分。右利き。徒手筋力テストで右上下肢共に 3 の片麻痺を認める。頭部造影MRI の T1 強調水平断像と冠状断像を別に示す。翌日、開頭腫瘍摘出術を行うこととなった。

術後新たに起こる可能性がある神経症状はどれか。 2 つ選べ。

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正解:b, c

AI解説

この問題では、左側頭-頭頂葉の腫瘍摘出術後に生じ得る合併症を問うています。重要なポイントは3つあります。

  1. 局在解剖の理解:腫瘍は左側頭葉(ウェルニッケ野領域)から頭頂葉(視放線走行領域)に及んでいます。術中操作により、これらの機能領域や神経線維路が障害されるリスクがあります。

  2. 脳葉機能の関連付け:ウェルニッケ野(左側頭葉後部)は言語理解の中枢であり、損傷で感覚性失語を生じます。視放線(頭頂葉深部を通る)の障害では対側(右)の同名半盲が生じます。

  3. 術前神経症状の分析:術前の右片麻痺は既存の運動野/運動路障害を示します。術後新規症状は、腫瘍周囲の保存されていた機能領域(言語野・視覚路)が手術操作で影響を受けた場合に出現します。

画像所見から、腫瘍が言語野に隣接し視放線を圧迫していることが、選択肢絞り込みの決め手となります。

a

着衣失行は通常、右頭頂葉(特に縁上回)の障害で生じます。本症例の病変は左半球に限局しており、着衣失行を説明する解剖学的根拠がありません。ただし、腫瘍が右頭頂葉に及ぶ場合や術中に右半球を損傷した場合は可能性が生じます。

b

正解。左側頭葉後部(ウェルニッケ野)の損傷で生じる感覚性失語のリスクがあります。術前の言語機能が保たれている可能性がある(病歴に記載なし)ため、術中にこの領域を損傷すると新規出現する可能性が高いです。ウェルニッケ野の同定には術中脳波モニタリングや皮質刺激検査が有用です。

c

正解。視放線(頭頂葉深部を走行)の損傷により右同名半盲が生じ得ます。視放線は側脳室後角に沿って走行するため、腫瘍摘出時の深部操作で損傷リスクがあります。術後早期の視野評価が重要です。

d

眼球運動障害は中脳(動眼神経核)や橋(外転神経核)の障害で生じます。本腫瘍の局在からは直接的な関連がなく、手術経路もこれらの領域から離れています。ただし、術後の脳浮腫による間接的圧迫や頭蓋内圧亢進では生じ得る可能性はあります。

e

左半身感覚障害は右頭頂葉(一次体性感覚野)の障害で生じます。本症例の病変は左半球にあるため、解剖学的に矛盾します。ただし、術中に右半球を損傷した場合や術後発作が右半球に波及した場合は可能性が生じます。