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日本医師国家試験116D27

64歳の男性。陰嚢の腫脹、発赤および疼痛を主訴に来院した。5日前から陰嚢の腫脹と発赤を自覚していたが、2日前から範囲が急速に拡がり疼痛が強くなったため受診した。糖尿病のため内服治療中である。 意識は清明。体温38.6℃。脈拍104/分、整。血圧 96/57 mmHg。呼吸数20/分。触診では陰嚢から会陰、肛門周囲にかけて握雪感がみられる。 血液所見:赤血球 420万、Hb 12.2 g/dL、Ht 36%、白血球 15,800、血小板 14万。血液生化学所見:総ビリルビン 1.0 mg/dL、AST 63 U/L、ALT 32 U/L、LD 302 U/L(基準 120~245)、γ-GT 47 U/L(基準 8~50)、CK 290 U/L(基準 30~140)、尿素窒素 25 mg/dL、クレアチニン 1.0 mg/dL、血糖 230 mg/dL、HbA1c 8.2%(基準4.6~6.2)。陰嚢周囲の所見を別に示す。 まず実施すべき検査はどれか。

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正解:e

AI解説

この症例は、糖尿病を基礎疾患に持つ患者に生じた陰嚢から会陰部にかけての急速に進行する感染症が疑われる。主な診断ポイントは以下の通りである:

  1. 臨床所見:握雪感(皮下気腫)を伴う急速な軟部組織感染の進行は、ガス産生菌による壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)を示唆する
  2. 全身状態:発熱、白血球増加、LDH・CK上昇は全身性炎症反応を示す
  3. 糖尿病のコントロール不良(HbA1c 8.2%)が易感染性の背景にある

フルニエ壊疽では早期の画像診断(CT)が重要である。CT検査により以下の情報が得られる:

  • 感染の解剖学的広がり(筋膜レベルでの進展)
  • ガス産生の有無
  • 外科的デブリードマンの範囲決定
  • 原発感染巣(直腸・尿路など)の同定

治療は抗菌薬投与と緊急外科的処置が原則であり、画像診断は治療方針決定に不可欠である。

a

便培養は消化管感染症の原因菌検索に有用だが、本症例の緊急性・病態とは直接関連しない。フルニエ壊疽の起因菌は多菌性(嫌気性菌・グラム陰性桿菌・連鎖球菌など)が一般的で、便培養の優先度は低い。

b

下部消化管内視鏡検査は直腸病変の評価に適するが、急性期の感染症評価には適さない。患者の血圧低下(96/57 mmHg)がある状態で侵襲的検査を行うリスクが高く、まずは画像診断が優先される。

c

持続血糖モニタリングは糖尿病管理には有用だが、急性感染症の評価・治療方針決定に直接寄与しない。血糖コントロールは重要だが、現時点での最優先事項ではない。

d

ガリウムシンチグラフィは慢性炎症や不明熱の評価に用いられるが、解像度が低く急性期の軟部組織感染症診断には適さない。結果判読までに時間を要し、緊急対応が必要な本症例では有用性が低い。

e

骨盤~大腿CTが最優先。軟部組織のガス像検出感度が高く、感染の解剖学的進展範囲を迅速に評価できる。筋膜レベルの炎症所見(筋膜の肥厚・造影増強)、ガス貯留、膿瘍形成の有無など、治療方針決定に不可欠な情報が得られる。