日本医師国家試験113A27
60歳の男性。血尿を主訴に来院した。3か月前から時々血尿を自覚していたが、自然に消失していたため医療機関を受診していなかった。2日前から血尿が持続するため受診した。喫煙は20 本/日を40年間。飲酒は日本酒を1合/日。 身長 165cm、体重 62 kg。血圧 128/78 mmHg。尿所見は沈渣で赤血球多数/HPF、白血球 5〜10/HPF。膀胱鏡像を別に示す。
適切な治療はどれか。
正解:e
AI解説
この症例は60歳男性の持続性血尿を主訴とする。喫煙歴(40 pack-year)は膀胱癌の主要リスクファクターであり、無痛性血尿は膀胱腫瘍の典型的症状である。膀胱鏡所見で乳頭状・カリフラワー状の表在性腫瘍が確認されており、非筋層浸潤性膀胱癌(NMIBC)が強く疑われる。
診断の鍵となるポイントは:
- リスクファクター:長期喫煙歴
- 臨床像:無痛性肉眼的血尿
- 画像所見:外向性発育の表在性腫瘍(筋層浸潤なし)
NMIBCの治療原則は、まず経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)による正確な病理診断と病期分類である。TURBTは診断的意義と治療的意義を兼ね備え、Ta/T1病変の標準治療。筋層浸潤の有無が治療戦略を分ける重要なポイントで、本例では画像所見から浸潤なしと判断される。
分子標的薬は転移性膀胱癌や化学療法不応例に用いられる。本例は表在性腫瘍であり、分子標的薬が第一選択となる病態ではない。PD-L1発現やFGFR変異などのバイオマーカー検査後に適応が検討される。
放射線照射は筋層浸潤性膀胱癌(MIBC)の膀胱温存療法や術後補助療法として用いられる。表在性癌では放射線感受性が低く、また長期合併症(膀胱萎縮など)のリスクから適応外。
膀胱全摘術はT2以上の筋層浸潤癌や広範なCIS、高リスク表在癌の再発例が適応。初回診断時の表在癌では過剰治療。全摘術には尿路変向が必要でQOL低下が大きい。
膀胱部分切除術は腫瘍が膀胱頂部などに限局し、TURBTが困難な場合に考慮される。近年は適応が限定され、本例のような通常の表在癌では第一選択ではない。
経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)が正解。表在性膀胱癌の診断確定と根治的治療を兼ねる。切除標本の病理検査で浸潤深度(Ta/T1)や悪性度を評価し、術後のBCG膀胱内注入療法の必要性を判断する。